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「天地は万物の逆旅」番外編 |
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その花の名前は |
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瀬生 曲 |
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気が付いたらこの世界にいた。
彼女は精霊だった。
一口に精霊とは言っても、その生まれや容姿は様々である。
彼等は大概自然発生的にこの世に生まれてくる。親を持つ者は稀である。この世界が親なのだと言えないこともない。樹木や湖など、特定の何かの精霊として生まれる者もいる。
姿も、手のひらに乗るような小さな者から熊のように大きな者、人間に似た姿の者、特定の姿を持たない者等、様々である。だから精霊というのはとても大雑把な括りなのだが、彼等は気にしない。同族は同族として感じるのである。
彼女の場合は人間と大差ない外見を持って生まれた。ラズベリー色の髪と瞳は人間としては珍しい色合いだが。
親は無い。気付いた時には明るい森の中に立っていた。人間で言えば三、四歳の子供の姿だった。
精霊はある程度の知識を共有して生まれる。だから一人でも困ることは無い。
(おなかがすいた)
それだけが少し困った。
ずっと昔、地上にまだ神々がいた頃には感じることのなかった空腹感だ、ということは共有知識の中にあった。
どうすればそれを癒せるかも知っている。
彼女は人間の通る道の近くに行き、木の上に陣取る。人が通ったら幻術を掛けて道に迷わせた。疲れて眠ったところに下りていき、こっそりと精気をいただく。首筋に手を当てれば、指先からそれが流れ込んで来る。命を落とす量ではない。目覚めた旅人は疲れを感じながら道に戻っていく。
それで少しは飢えをしのげた。
神々が地上を去ったのは人間のせいだった。精霊達は人間との交流を断った。
(わるいのはあいつらなんだし)
人間の精気を吸うことに罪悪感は感じない。
ゆっくりと成長しながら様々な幻術を使えるようになり、人間を惑わせるやり方も増えた。
「ばっかな奴」
外見的には十五、六の花のような乙女に育った彼女は、倒れている男に嘲笑を浮かべる。
最近の気に入りは、絶世の美女に化けて男を騙すやり方だった。化けなくても充分美少女なのだが、今は「絶世の美女」に凝っている。少し年齢を上げたほうが効率もよい。自分で化けて接近するのだからリスクはあるが、そのスリルは退屈しのぎには丁度いい。もっとも、今のところ彼女の幻術を見破った者はいないので、スリルとも言えないようなものだったが。
土地に縛られる精霊では無かったのを幸い、この数十年──精霊の多くは人間よりも長い寿命を持つ──あちらこちらの街道で食事をしたが、どこでもあまり変わり映えは無いなと思う。
「今度はあの山の方にでも行ってみっかなぁ」
とても丁寧とは言えぬ口調で呟いて、またふらりと流れる。
「あ〜あ、腹減った」
本当は、満たされないのは腹ではない。
──寂シイ──神々ハドウシテ私達ヲ置イテイッテシマワレタノ──?
迷子というのはこんな気持ちなのかもしれないと思う。実際に神々のいた時代に生きたことは無いけれど、その寂しさに時々押し潰されそうになる。
そして人間の精気を奪う。それも一時しのぎにしか過ぎないけれど、しないよりはましだ。
「なーんか面白(おもしれ)ぇことねぇかなぁ」
こんな世界で長い時を生きる意味など無いと、考えなくて済むように。
彼女はまだ知らない。
世界に危機が迫っていることも、これから出会う運命も。
「何者……というほどの者では……田舎から出て来たただの神官志望者なんですけど」
派手ではなく、消え入りそうにでもなくただ強く咲く。
その花の名前は──
「いいからいいから。あ、あたしの名前、リレンね」
FIN
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掌編 |
その花の名前は |
瀬生 曲 |
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番外編紹介: |
まだ主人公に出会う前の精霊の少女の話。出会うべき運命も知らない。 |
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注意事項: |
注意事項なし |
(本編完結済) |
(本編含暴力表現少) |
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本編: |
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サイト名: |
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